枯れ木も生きる森
吉田 耕治(金城学院大学 薬学部薬学科 准教授)
樹木の寿命はどれくらいでしょうか。
そもそも動物のような寿命という概念が,樹木にもあてはまるのでしょうか。
実際のところはよくわかりません。それでも樹木は,いつかは枯れてしまいます。それは,他の樹木との競争に負けたとか,栄養状態が悪くなったとか,あるいは感染症などの病気にかかってしまったからなのかもしれません。
生きた樹木は,種子が森に住む動物の食料になるなど,生態系の中で重要な役割を果たしていますが,枯れてからもなお役割があります。例えば鳥との関係。コゲラというスズメくらいの大きさの,日本で一番小さなキツツキがいます。もともとは主に山地に住んでいましたが,今では都市部まで生息域を広げていて,私は名古屋市内の鶴舞公園や名城公園でも目撃したことがあり,最も身近なキツツキと言えるかもしれません。キツツキなので木の幹に穴を開けて巣を作り,子育てをするのですが,コゲラは立枯れの木や枯れ枝にしか穴を開けないのが特徴です。
そう,枯れ木はコゲラの繁殖に欠かせない存在なのです。そしてコゲラだけではありません。コゲラと同じくらいのサイズの鳥の一つにシジュウカラがいますが,コゲラが作ってその後「空家」になった巣を,シジュウカラはちゃっかり借りて子育てをします。
このように枯れ木は,森に住む鳥たちの子育てに役に立っているのです。
ところでみなさんは,森に入った時に枯れ木を見つけたことがあるでしょうか。
おそらく「あまり見た覚えがないな・・・」という人の方が多いのではないでしょうか。
実際のところ,森にたくさんの木が生えていても,枯れ木はその割に多くないのです。人通りのある道の脇の枯れ木や枯れ枝は,安全上撤去するのはやむを得ないと思いますが,安全上問題のない場所であればそのままにしておいてあげたいものです。個体としては死んでいても,森という生態系の中では,枯れ木もまだ「生きて」いるからです。
吉田耕治(よしだ こうじ)
金城学院大学薬学部准教授。これまで酸性降下物の樹木の成長に及ぼす影響などの研究を行い,現在は里山や湧水湿地の保全に関する研究を行っている。趣味は山登りなど。
【金城里山ブログ】http://kinjosatoyama.blogspot.jp/